はじめに
鹿児島県南種子町では、今年から e-kakashi の導入が本格的に始まり、自治体と生産者、そして教育機関が一体となって科学的な農業に取り組んでいます。
<過去の記事>
「宇宙の町」南種子町の次なる挑戦 e-kakashiで進める農業の高度化と次世代教育
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町内ではレザーリーフファンをはじめ、オクラ、マンゴー、フルーツパプリカ、カボチャのほ場に機器が設置され、生育環境を記録しながらデータに基づく栽培管理の実践が広がっています。その中でもレザーリーフファンは17か所に e-kakashi を設置し、地域の主要作目として力を入れている分野です。今回、こうした取り組みをさらに深めるために、生産者の皆さまとワークショップを開催し、環境データと現場の経験を重ねながら栽培の現在地と次の可能性を共有しました。
データが映し出す、圃場ごとの個性
レザーリーフファンには、生育に適した温度や湿度、土壌水分、日射量といった理想的な環境がありますが、栽培の現場でそれらを完全に再現することは容易ではありません。今回のワークショップでは、夏から秋にかけて記録された環境データを生産者の皆さまと見返し、各圃場でどのような違いが生まれているのかを丁寧にたどりました。
分析から見えてきたのは、環境の数値が理想に近いかどうかよりも、日々の変化がどれだけ緩やかに保たれているかが生育に影響していそうだという点です。例えば潅水のタイミングや量が整っている圃場では株の状態が安定しており、温度や日射についても、急な変化を避けることで余計な負担を減らせることが分かりました。
理想通りに管理することは難しくても、環境の変化をゆっくりにしてあげることで生育が整い、収量や品質の向上につながる。そのことがデータで確かめられたことは、生産者の経験と科学が自然に重なり合った大きな成果だったといえます。

現場の経験とデータが同じテーブルに並ぶ場所
ワークショップの後半では、生産者の皆さまが日頃感じている疑問や工夫がそのまま場に持ち寄られました。例えば、水分量の数値がどのような状態を示しているのか、遮光資材の使い方によって日射がどう変わるのか、ハウスの向きや風の通りが生育に関係しているのかなど、普段はそれぞれの圃場で完結している気づきが、データと一緒に共有されていきました。
データが示す傾向と、長年の経験から感じてきた感覚が重なる場面も多く、生産者の皆さまが自分の圃場を思い浮かべながら耳を傾ける姿が印象的でした。特に、空気の流れが光合成に影響するという話題では、グリーンが他地域で経験してきた改善事例を紹介し、送風を工夫するだけでも株の状態が変わったことをお伝えしたところ、生産者の皆さまが強い関心を寄せてくださり、数値だけではとらえにくい栽培の変化が具体的に共有されるきっかけになりました。
こうした対話を通じて、データの見方だけでなく、環境を整えるための考え方が参加者同士のなかで自然と深まり、データと現場の知識が同じテーブルに並ぶ場が少しずつ形づくられていきました。

次の一歩へ
今回のワークショップを通じて、生産現場ではすでに多くのデータが蓄積され始めていることが改めて共有されました。今後は、遮光資材の使い方や季節ごとの扱い、換気や潅水の方法など、日々の管理に関する情報も整理しながら、環境の変化が生育にどう影響しているのかをより立体的に捉えていく予定です。冬のデータが加われば、レザーリーフファンにとって重要となる低温環境への対応も詳しく見えてくるはずです。
南種子町の取り組みは始まったばかりですが、初年度からすでに具体的な改善点が見えてきたことは大きな前進です。環境の変化を穏やかに保つことが収量や品質に結びつく傾向がデータから確認され、生産者の皆さまがすぐに実践できる視点として共有されました。経験とデータの両方をよりどころに、地域の栽培技術がこれからさらに確かなものになっていく手応えが生まれています。
おわりに
南種子町が進めるスマート農業は、デジタル機器を置くだけの取り組みではありません。生産者の経験とデータが重なり合い、地域として未来の栽培を考えていくプロセスが、初年度から確かな成果として形になり始めています。レザーリーフファンの勉強会は、その動きの中にある一つの場面です。ここで生まれた学びと気づきが、これからの南種子町の農業を支える基盤になっていくはずです。そして e-kakashi もまた、この町の挑戦に寄り添いながら、次の一歩をともに形づくってまいります。
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