はじめに
北海道十勝の帯広地域では、気候変動の影響により気温上昇や降水量の減少が顕著になり、潅水のタイミングを見極めることが一層難しく、感覚だけでは対応が難しい場面も増えてきています。
こうした中、JA帯広かわにしでは北海道の補助事業を活用し、三年間で潅水の最適化を目指す実証調査を開始しました。初年度である2025年は、農家が自らデータを見ながら潅水を判断できる仕組みづくりを目的とし、地域を代表する二名の生産者が協力しました。JA帯広かわにしの相談役である平野さんを中心に、科学的な視点が簡単に取り込めるe-kakashiを活用した新しい農業の形作りが進められています。
 
データを活用した潅水の最適化
実証では、従来の雨水に頼った慣行農法で栽培したほ場(慣行区)と、e-kakashiで得られるデータをもとに潅水の最適化を行ったほ場(潅水区)を設定しました。それぞれにe-kakashiを設置し、温度、湿度、土壌水分、日射量の環境データの可視化に加え、降水量などの天気予報を手元で確認できるように改善。生産者が手元で確認できるデータをもとに、潅水のタイミングが判断できるようにしました。

平野さんは次のように話します。
「近年の気候変動の影響で、これまでのように感覚だけで潅水の判断を行うのは難しくなっています。生産者自身が潅水のタイミングや量を判断できる情報提供が、これまで以上に求められています。どの様にデータを「わかりやすく」生産者に返すか、e-kakashiを活用して取り組んでいます。」
 
玉ねぎ190%、馬鈴薯140%の増収
ベテラン農家の安田さんは、玉ねぎと馬鈴薯(トヨシロ)を対象に実証。慣行区と潅水区で収量を比較した結果、玉ねぎは190%、馬鈴薯は140%の増収を達成しました。
「データを見ながら潅水を行うことで、生育の違いがはっきりと出ました」と安田さんは話します。玉ねぎは、慣行区では小ぶりの玉が多く見られましたが、潅水区ではソフトボール大(2Lサイズ相当)まで育ちました。また馬鈴薯は草丈も伸び、明確に生育の差を実感しました。高温が続いた年でも、潅水の効果を数値と見た目の両面で確認できた」といいます。

「最初は半信半疑でしたが、実際にやってみないと分からないと思い、チャレンジしてみました。e-kakashiを導入してからは、土壌水分の数値を見ながら潅水のタイミングを判断できるようになりました」と振り返ります。今回の結果は、地域の他の生産者にとっても有効なモデルケースとなりました。
 
若手農家も玉ねぎ140%増収
実証に参加した増地さん(23歳)は、玉ねぎを対象に実証を行った結果、潅水区は慣行区と比較して収量が150%に向上しました。「生長のスピードも勢いも全然違いました。数字だけでなく、見た目でも違いが明確でした」と増地さんは話します。「データを見て、これだけ違うんだというのがわかりました。」

また、今後の展望について増地さんは次のように語ります。
「技術が進んでも“何のために使うのか”を意識して取り組むことが大切だと思います。人手不足や高齢化が進む中で、データを活用することでより少ない労力で成果を上げられる農業を実現していきたいです。」
若手らしい前向きな姿勢と、地域の未来を見据えた考え方が印象的です。増地さんのような新しい世代の取り組みが、十勝の農業を次のステージへ導いています。
 
地域に広がる科学的な農業
JA帯広かわにしでは、初年度の成果を踏まえ、今後は実証の範囲を広げていく予定です。農家が自らデータを活用し、潅水を最適化する仕組みが実際に機能したことで、地域全体での導入拡大に向けた動きが始まっています。
e-kakashiが提供する「土壌体積含水率の5日後予測」など、ちょっと先の未来を予測する機能の導入も計画しています。これにより、潅水の最適化をさらに進化させ、品質と収量の安定化を目指す取り組みが進められています。
 
おわりに
e-kakashiは、現場の課題を解決し、農家が栽培に集中できる環境をつくることを目指しています。データを相棒として活用し、難しい分析や予測はソリューションにまかせることで、生産性と収益を高め、持続可能な農業の実現を支えています。
帯広の農業のさらなる発展と持続可能性を支える存在であり続けられるよう、これからも現場に寄り添いながら支援を続けてまいります。
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