はじめに
福岡市が推進する「Fukuoka City スマート農業マッチングプロジェクト」の一環として、JA福岡市東部管内で農業用IoTソリューション「e-kakash」を活用した実証が行われました。
本取り組みでは、経験年数の異なる農家のほ場にe-kakashiを導入し、環境データを可視化。さらに、JAの農業指導員と農家が連携し、科学的な営農に取り組むことで、生産量の大幅な向上と作業の効率化を実現しました。
技術の属人化と負担の大きい環境管理
いちご栽培に限らず、農業における重要課題の一つは、経験に基づく「暗黙知」の継承の難しさです。栽培の技術が属人化しており、どのように次世代に継承していくかを課題とする地域がたくさん存在します。特に新人農家にとっては、生育環境の変化や栽培管理の判断が曖昧になりやすく、技術の早期習得が困難な状況です。
また、ハウス内の温度・湿度・換気などを常に気にしながら現地に足を運ぶ必要があり、労働負荷の大きさも課題の一つ。こうした状況を改善するため、スマート農業技術の導入が検討されました。
「e-kakashi」とともに目指すデータに基づいた栽培指導と技術継承
今回の実証では、JA福岡市東部管内の2つのいちご農家それぞれのほ場に「e-kakashi」を導入し、データの見える化だけではなく比較を容易にする環境を整えました。またJAの営農指導員に対してはデータ活用ノウハウを共有し、農家と指導員が二人三脚で科学的な栽培に取り組める体制作りも支援。飽差の変化や土壌の水分状態などをもとに、具体的かつ納得感のあるアドバイスが行えるようになりました。
新人農家は140%の増産、ベテランも125%の増産達成
e-kakashiの導入によって、農家の作業スタイルは大きく変わりました。新人農家の方は「朝起きてまずスマートフォンでハウスの環境データを見ることが日課になった」と話すように、日常の中に自然とデータを活用した科学的な栽培が意識付けられるようになりました。潅水や換気の判断も、これまでは「なんとなくの感覚」で行っていたものが、データをもとにした科学的根拠をもって、判断できるようになっています。移動先でもハウスの状態を確認し、必要に応じて遠隔で天窓を開けて換気するといった対応が可能となり、作業が時間や場所に縛られなくなりました。これにより、ほ場への無駄な移動が減り、他の作業に時間を割けるようになったという声も上がっています。
特筆すべきはその成果です。新人農家は10aあたりの生産量が前年比で140%に増加。これは、昨年度のベテラン農家の平均生産量をも上回る結果であり、半年という短期間での技術習得と成果の最大化に直結した好例となりました。
科学的な栽培の効果は、新人農家に限られたものではありません。ベテラン農家においても、営農指導員がe-kakashiのデータをもとにきめ細かなアドバイスを行ったことで、前年比125%の増産を達成。経験にデータを融合させることで、これまで以上の成果が得られることが明らかになりました。この事例は、ベテランにとっても「データを味方につけること」が新たな成長を引き出す力になることを証明しています。
スマホの画面イメージ
おわりに
スマート農業は、ただ便利なツールを導入することが目的ではなく、地域の課題を解決し、未来へとつなぐ取り組みです。
今回の実証で得られた経験と成果が、福岡市の農業のさらなる発展につながるよう、今後も支援を続けてまいります。